性的意図がなくても強制わいせつ罪?

2019-04-12

性的意図がなくても強制わいせつ罪?

~強制わいせつ罪~

強制わいせつ罪は刑法176条に規定されています。

刑法176条(強制わいせつ)
13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は,6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し,わいせつな行為をした者も,同様とする。

強制わいせつ罪は強制性交等罪(旧:強姦罪)とともに平成29年の刑法改正により非親告罪となりました。
強姦罪の客体が女性に限定していたことから,強制わいせつ罪は「13歳以上の男女」という条文でしたが,強制性交等罪が客体が「13歳以上の者」となったため,強制わいせつ罪も「男女」から「者」に改められました。

~わいせつの意義~

刑法176条の構成要件として「わいせつな行為」がありますが,「わいせつな行為」とはどういった行為をさすのかは条文から読み取ることはできません。
最高裁判所はわいせつの定義として次のように判示しています。
「徒に性欲を興奮または刺激せしめ,かつ普通人の性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること」(最判昭26・5・10刑集5・6・1026)。
ただし,このわいせつの定義は,わいせつ物頒布罪(刑法175条)に関して用いられたものであり,個人の性的自由が保護法益となっている強制わいせつ罪では,より広いわいせつ概念を用いる必要があるとされています。
強制わいせつ罪にあたる「わいせつな行為」としては、無理矢理キスをするような行為が挙げられます。
また,わいせつ行為は,必ずしも被害者の身体に触れる必要はなく,脅迫などで裸にさせ写真を撮影するような行為も含まれます(最判昭45・1・29刑集24・1・1)。

~性的意図~

上記の昭和45年の事件は,復讐目的で女性を裸にさせ写真を撮影したという事件です。
この事件について最高裁は「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専ら婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつ罪は成立しないというべきものである。」と判示しました。
この事案では性的意図が必要であるという多数意見3:反対意見2であり,僅差での判決となりました。

~平成29年11月29日判決~

事件の概要は以下のとおりです。

知人からお金を借りる条件としてわいせつな行為を撮影した画像を送るように要求されたので,自己の性欲を満たす目的ではなく、わいせつ行為中の画像を撮影し知人に送る目的で、13歳未満の女児に対してわいせつな行為をしたという事件です。

最高裁は裁判官15名全員一致で以下のように判示しました。

刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。
したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。
しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。

この判例変更により強制わいせつ罪の成立には加害者の性的意図が必要とされていた従来の見解から,強制わいせつ罪の成立に加害者の性的意図は必ずしも必要ではなくなりました。
強制わいせつ罪が成立する範囲が広がったということです。
ただし,加害者の性的意図は一律に不要であるという意味ではなく,加害者に性的意図がなくても個別具体的な事情によって強制わいせつ罪が成立する場合もあるという意味であると考えられています。

はす。
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