準強制わいせつ
準強制わいせつ
刑法第178条1項
「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,わいせつな行為をした者は,第176条(※注 強制わいせつ罪)の例による。」
【準強制わいせつ事件の解説】
1 準強制わいせつとは
準強制わいせつ罪とは,心神喪失又は抗拒不能となった女性に対してわいせつな行為をした場合に成
立します。
「心神喪失」とは精神的な障害によって正常な判断力を失った状態のことをいい,「抗拒不能」とは
心理的または物理的に抵抗ができない状態のことをいいます。
例えば,お酒を飲ませて酩酊させた場合や,すでに酩酊状態となっている女性を姦淫した場合に成立
することになります。
2 わいせつな行為について
準強制わいせつ罪における「わいせつな行為」とは,被害者の意思に反して,身体を侵害し,そのこ
とによって被害者の性的羞恥心を害し,かつ一般通常人でも性的羞恥心を害されるであろう行為をいうとされています。
なお,2017年に,刑法が一部改正され,これまでの「強姦罪」という罪に替わり,「強制性交等
罪」という新たな規定が創設されました。これにより,抗拒不能の人に対し肛門性交(アナルセックス)や口腔性交(フェラチオ)をした場合,刑法一部改正以前は準強制わいせつ罪が適用されていたのですが,現在は準強制わいせつ罪が適用されることはありません。
現在,準強制わいせつ罪における具体的なわいせつな行為とは,性交や肛門性交,口腔性交を除く行
為のことをいい,例えば暴行又は脅迫を用いて陰部を触ったり,裸にさせたりする行為などをいいます。
3 非親告罪であること
準強制わいせつ罪は,非親告罪とされています。非親告罪とは,告訴がなくとも公訴を提起すること
ができる犯罪をいいます。
2017年の刑法一部改正以前の強姦罪は,親告罪とされており,告訴権者(被害者等)による告訴
がなければ,準強制わいせつ罪として公訴することはできませんでしたが,現在は,告訴がなくとも公訴の提起が可能です。
4 準強制わいせつ事件の流れ(平成26年度検察統計年報参照)
刑事事件として処理された準強制わいせつ事件(強制わいせつ事件等も含みます。)のうち,行為者
が逮捕されたケースは約66%です。また,逮捕された場合の勾留率は約96%と高い上,勾留延長される場合も約86%と高いことから,逮捕された場合の身柄拘束は長期化する傾向があるといえます。
一方で,準強制わいせつ事件として処理されたケースの起訴率は45.8%とされ,重大犯罪である
にもかかわらず,低いといえます。起訴率が低い理由は,2017年の刑法一部改正以前においては,
準強制わいせつ罪が起訴に告訴を必要としていた点や準強制わいせつ致死傷罪の場合には裁判員裁判となることが影響していると思われます。
【準強制わいせつ,準強制わいせつ事件の対応】
1 無罪を主張する場合
身に覚えがないにも関わらず,準強制わいせつの容疑を掛けられてしまった場合や相手方は心神喪失・抗拒不能ではなかった場合には,弁護士を通じて,不起訴又は無罪を獲得する余地があります。
身に覚えのない準強制わいせつの容疑をかけられた場合には,アリバイや真犯人の存在を示す証拠を
提出することで,を立証する十分な証拠がないことなどを主張していきます。
また,心神喪失・抗拒不能ではなかったと主張する場合には,心神喪失・抗拒不能には当たらないこ
とを裏付ける客観的な証拠,事情を捜査機関に主張していくこととなります。
もっとも,アリバイの主張や心神喪失・抗拒不能には当たらないとの主張・証明にはポイントがある
ところ,効果的な主張・証明を行っていくことは,一般の方には困難と思われます。
この点,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では,準強制わいせつ事件など刑罰(刑事責任)
が問題になる刑事事件・少年事件を取り扱っており,刑事弁護実績が豊富な弁護士が多数在籍しておりますので,適切なアドバイスをすることにより,不起訴・無罪を獲得するためのサポートをさせていただきます。
2 罪を認める場合
⑴ 謝罪,示談
被害者感情が重要視される昨今,準強制わいせつ事件においても,被害者の方と示談することは,重要な弁護活動です。警察に被害届が提出される前であれば,被害届の提出を阻止し,警察の介入を阻止して事件化を防ぐことができます。
警察に被害届が提出されてしまった後であっても,準強制わいせつ事件においては,示談をすることによって,不起訴を獲得する可能性を高めることができます。
また,強制わいせつ罪は,2017年の刑法改正により,非親告罪となりました。非親告罪とは,検察官が起訴をする要件として,被害者等からの告訴が必要とされる罪を言います。よって現在は,示談により告訴取消しを獲得しても,確実に不起訴を獲得できるという法律にはなっていません。
ただし,実務上の運用においては,被害者の意思を尊重し,プライバシー侵害が生じないように
配慮することとされており,示談によって告訴の取消しに結びつけることができれば,不起訴獲得
に向け大きく前進することができるでしょう。準強制わいせつ事件では,被害弁償や示談の有無及
び被害者の処罰感情が行為者の処分に大きく影響することになるので,弁護士を介して迅速で納得
のいく示談をすることが重要です。
また,示談をすることで行為者が釈放される可能性もありますので,示談によって行為者の早期
の学校復帰・社会復帰を目指すことができます。
⑵ カウンセリング等を受ける
準強制わいせつ事件の加害者のなかには,その背景に自己の性的衝動に対するコントロールに関し,何らかの問題を抱えている場合が多く,そのような場合には,専門家による治療が必要となります。
カウンセリングを受けたり,クリニックに通うことによって,問題を根本から改善する必要があり
ます。