準強制性交等罪で無罪判決

2019-05-17

準強制性交等罪で無罪判決

兵庫県神戸市灘区に住むAさんは(48歳)は,妻(46歳)と長女(19歳)の3人暮らしです。ある日,Aさんは,家族3人で外出中,妻には内緒で長女Vさんをホテルへ誘い,Vさんと性交しました。そして,数か月後,Aさんは兵庫県灘警察署準強制性交等罪逮捕されました。Aさんは,「Vとは同意の上だった」と話していましたが,結局は,準強制性交等罪で起訴されてしまいました。
(フィクションです)

~ はじめに ~

先日,名古屋地方裁判所岡崎支部で,準強制性交等罪で起訴され裁判にかけられた男性に対し無罪判決が宣告されました。事案の詳細は不明ですが,報道によれば,男性は,①2017年8月,勤務先で実の娘と性交した,②同年9月,愛知県内のホテルで性交した,という事実で起訴されていたようです。この報道を聞かれた方の中には「なぜ,実の娘と性交しても無罪となるの?」,「準強制性交等罪ってどんな罪?」などと疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか?そこで,このコラムでは,準強制性交等罪の内容や無罪判決が宣告された理由などについてご説明いたします。

~ 準強制性交等罪 ~ 

準強制性交等罪は刑法178条2項に規定されていますから,まず,その規定の内容を確認しましょう。

刑法178条2項
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心身を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,性交等をした者は,前条の例による。
刑法177条
 13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は,強制性交等の罪とし,5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し,性交等をした者も,同様とする。

「心神喪失」とは,精神の障害によって正常な判断能力を失っている状態をいいます。例えば,熟睡,泥酔・麻酔状態・高度の精神病などがこれに当たります。
「抗拒不能」とは,心神喪失以外の理由によって心理的・物理的に抵抗することが不可能又は著しく困難な状態をいいます。恐怖,驚愕,錯誤などによって行動の自由を失っている場合などはこれに当たります。
「(心身喪失・抗拒不能に)乗じる」とは既存の当該状態を利用することをいいます。「心神喪失・抗拒不能にさせる」手段には制限はありません。麻酔薬,睡眠薬の投与・使用,催眠術の施用,欺罔などはいずれもその手段となり得るでしょう。
「前条の例よる」の「前条」とは177条のことを指します。「例による」とは,法定刑を177条と同様,「5年以上の有期懲役」とするという意味です。

~ なぜ無罪? ~

では,なぜ,無罪となったのでしょうか?本件では,岡崎支部の事件では,父親が娘の「抗拒不能に乗じ」たか否かが争点となりました。
この点,検察側は,「中学2年生の頃から性的虐待を受け続け,専門学校の学費を負担させていた負い目から心理的に抵抗できない状態(抗拒不能の状態)にあった」と主張し,弁護側は,「同意があり,抵抗可能だった」と主張したようです。

これを踏まえ,名古屋地方裁判所岡崎支部は,「性交は(娘の)意に反するものだった」とし,長年の虐待により,父親が娘を精神的な支配下に置いていたことは認めました。しかし,「以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく,抵抗を続けて拒んだり,弟らの協力で回避したりした経験もあり,抗拒不能な状態だった(「抗拒不能に乗じた」)とは認められない」と認定し,男性を無罪としました。

* 同意がない=有罪ではない *

このように,準強制性交等罪は「相手方の同意がない=有罪」ではないと裁判所は認定しています。つまり,あくまで準強制性交等罪の「性交」は「抗拒不能に乗じた」と認められなければ罪に問うことはできないのです。

~ 今後の行方 ~

検察側は,この判決に不服があるとして,4月8日付で控訴しています。一応,無罪判決が出たものの,検察側が控訴したことから無罪判決の裁判はまだ確定していません。もしかしたら,高等裁判所により「逆転有罪」となる可能性も残っています。今後の推移を見守りたいと思います。

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兵庫県灘警察署までの初回接見費用:35,600円)