準強制性交等罪の共犯

2019-06-21

準強制性交等罪の共犯

~ケース~
福岡県福岡市早良区在住の大学生Aさん(満20歳)は、ある日サークルの先輩Bさん(男・満20歳),Vさん(女・満20歳)とサークルの部室で飲み会をしていた。
Vさんはお酒が進んでおり,かなり酔っ払っていた。
BさんはかねてよりVさんに好意をもっており,Vさんが酔っていることに乗じてVさんと性交をしようと考えた。
そこで、BさんはAさんに「部室に誰か来ないように外で見張っていて欲しい」と頼んだ。
Aさんは先輩であるBさんの頼みを断ることが出来ず、部室の外で誰か来ないか見張りをしていた。
その後,BさんはVさんと性交したが,後日Vさんから福岡県早良警察署に被害届が提出された。
Bさんは準強制性交等罪の疑いで逮捕され、当日一緒にいたということでAさんも話を聞かれることになった。
(フィクションです)

~見張りと共犯~

今回のケースでは、Bさんに準強制性交等罪が成立する可能性が高いです。
Vさんに暴行や脅迫は加えていないものの、酩酊状態で抵抗できないのをいいことに性交に及んでいるためです。
問題となるのは、外で見張りをしていたAさんに、準強制性交等罪やその他の罪が成立するのかという事です。
ほとんどの事件で見張り役は「共犯」となりますが,事件によって共同正犯となるか幇助犯にとどまるかという違いがあります。
共同正犯であれば正犯と同様に重い責任を負うことになる一方、幇助犯であれば正犯より軽い責任にとどまることになります。
今回のケースでは、共同正犯幇助犯のどちらになるのでしょうか。

◇共同正犯◇

刑法60条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は,すべて正犯とする。」と規定しています。
これは、複数人での犯罪が全て共同正犯になるという意味ではなく、「共同」という特殊な関係で犯罪を行った場合のみ共同正犯になるということを意味します。
その「共同」関係を判断する一つの考え方として、特定の犯罪を画策する者同士が互いに協力し合って行為に及んだかどうかというものがあります。
この考え方によれば、共犯者それぞれが自己の犯罪を行おうという積極的な姿勢にあったか、犯罪の遂行のために一定の役割を果たしたか、といった事情が重要になると考えられます。
たとえば、侵入盗(住居などに侵入して窃盗を行うこと)における見張り役は、自らの手で窃盗に及んだ者と同様に窃盗罪共同正犯とされる場合が多くなっています。
侵入盗の場合,住人などが帰宅しないように外で見張りをするということは、犯行を確実に行ううえで重要な行為であるといえるでしょう。
また,侵入盗の場合には見張り役も分け前や利益を得ることが多く,自らも窃盗罪の遂行を目指しているといえるでしょう。
したがって,侵入窃盗の見張り役は、多くの場合共同正犯である考えることができます。

◇幇助犯◇

刑法62条は「正犯を幇助した者は,従犯とする。」と規定しています。
そして、従犯は正犯の刑を減軽する(刑法63条)ことから、幇助犯の刑は幇助の相手である正犯より軽くなります。
幇助とは,正犯の実行行為の遂行を促進し,さらには構成要件該当事実の惹起を促進することを意味します。
つまり、物理的・精神的な支援を行うことで、正犯の犯行を容易にするのが幇助犯ということになります。

◇今回のケース◇

今回のケースでは、AさんがBさんの頼みを断り切れず、BさんがVさんと性交している間、誰か来ないか部室の外で見張りをしています。
Aさんの見張りによりBさんは犯行が容易になっていると考えられるため、少なくとも準強制性交等罪幇助犯には当たりそうです。
それを超えて共同正犯が成立するかどうかは、Aさんの内心やその後の行動などに左右されるでしょう。
たとえば、後にAさんがBさんと交代して性交に及ぶつもりだった、積極的に見張りを行った、Bさんから報酬を貰う予定だった、といった事情があれば、共同正犯は肯定に傾くと考えられます。

~弁護活動~

準強制性交等罪強制性交等罪に準じますので、法定刑は5年以上の有期懲役(上限20年)となっています。
執行猶予を付けることができるのは懲役が3年以下の場合ですので、準強制性交等罪の場合は刑の減軽がない限り執行猶予を付すことができません。
幇助犯は先述のとおり刑の必要的減軽が定められていることから、懲役刑の下限は短期の二分の一,すなわち2年6ヵ月となります。
また,刑法66条は「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは,その刑を減軽することができる。」と定めています。
(準)強制性交等罪においては、行為の悪質性や被害者の方との示談の成立が情状酌量として考慮されます。
正犯であっても、被害者の方との示談の成立,「加害者を許します」という宥恕の存在,告訴の取消しがある場合には、酌量軽減により執行猶予付きの判決となる場合が多いようです。

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