医師と準強制わいせつ罪

2019-06-11

医師と準強制わいせつ罪

東京都立川市医師Aさんは、健康診断中に、女子の胸に聴診器を当てるふりをして、指を押し当てるなどした準強制わいせつ罪の疑いで警視庁立川警察署逮捕されてしまいました。Aさんは、接見に来た弁護士に、「胸に当たったかもしれないが、故意に触ったわけではない」などと話しています。
(事実を基に作成したフィクションです。)

~ はじめに ~

事例は、群馬県前橋市で起きた事件を元に作成しております。事例のように、医師が、診察中に患者に対してわいせつな行為をした準強制わいせつ罪の疑いで逮捕されるという事例が散見されます。今年2月に開かれた日本医師会副会長の会見では、日本医師会が把握する限り、平成20年以降で医師による診療を騙ったわいせつ行為について有罪判決を受けたケースは8件あるとのことでした。医師による犯罪行為は、国民の医療、医療行為に対する信頼を損ねるもので許しがたい行為であることは間違いありません。他方で、被害者である患者の思い込み、捜査機関のずさんな捜査が指摘されて無罪とされた裁判例もあります。

~ 準強制わいせつ罪とは ~

では、準強制わいせつ罪とはどんな罪なのでしょうか?本罪は刑法178条1項に規定されています。

刑法178条1項
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ,又は心神を喪失させ,若しくは抗拒不能にさせて,わいせつな行為をした者は,第176条の例による。

= 心神喪失 =

精神上の障害によって正常な判断を失っている状態をいいます。具体的には,熟睡,泥酔・麻酔状態・高度の精神病などがこれに当たります。責任能力における心神喪失(刑法39条1項)とは若干意味が異なります。

= 抗拒不能 =

心神喪失以外の理由によって心理的・物理的に抵抗することが不可能又は著しく困難な状態をいいます。本件のように、医師に対する信頼から治療・診察のための行為と誤信した場合、部屋の暗さや夢うつつであったことと声の類似のため夫と誤信した場合など、様々です。

= ~乗じ,~させ =

「(心身喪失・抗拒不能に)乗じる」とは既存の当該状態を利用することをいいます。「(心神喪失・抗拒不能)にさせる」手段には制限はありません。麻酔薬,睡眠薬の投与・使用,催眠術の施用,欺罔などはいずれもその手段となり得るでしょう。ただし、たとえば暴行を加えて失神させた場合については、暴行により抵抗を困難にしたとして、準強制わいせつ罪ではなく強制わいせつ罪となることも考えられます。

= 故意 =

本罪は故意犯です。加害者において,「被害者が心神喪失,抗拒不能の状態にあること」,「被害者を心神喪失,抗拒不能の状態にさせたこと」,「わいせつ行為に及んだこと」を認識している必要があります。なお,わいせつ行為か否かは社会通念から判断されます。よくある例としては、無理やりキスをする、胸を揉む、性器や肛門に指を入れるといったものが挙げられます。

* 本件の場合 *

本件の場合、健康診断中の行為ですから、医師Aさんに相手方が「抗拒不能」の状態にあることの認識は認められやすいと思われます。問題は、故意にわいせつ行為に及んだのかそうではないのかが争点となると思われます。

~ 無罪判決も ~

今年2月20日、東京地方裁判所で、全身麻酔による乳腺腫瘍の摘出手術を担当し、手術が終了した女性患者の乳首を舐めたという準強制わいせつ罪に問われた40歳代の乳腺外科の医師無罪判決が言渡されています(検察側控訴中)。判決では、「女性患者が麻酔の影響でせん妄状態に陥り、わいせつ行為を受ける幻覚を体験した可能性がある」と指摘、検察側が立証の柱とした女性の証言について、「女性は麻酔から覚めた際のせん妄(幻覚)の影響を受けていた可能性があることなどから、証言の信用性に疑問を差し挟むことができる」とし、犯罪(準強制わいせつ罪の成立)の証明がないことから無罪としたのです。

~ 無罪判決を受けた医師は? ~

医師は社会的に地位の高い職業であり、犯罪を疑われれ逮捕されれば社会的にも耳目を集めやすく、マスコミに報道されるリスクも高いをいえます。上記の無罪判決を受けた男性は、マスコミに報道されたことはもちろん、長期の身柄拘束をも余儀なくされたそうです。その結果、診察や手術などに影響が生じ、かかりつけ患者は行き場を失い、医療現場に不安がもたらされたとのことです。さらに医師は職を失い、実名報道によって本人のみならず家族や関係医療機関への不利益も生じているとのことです。

これらのリスクを少しでも軽減させるためには弁護士の力が必要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、性犯罪事件をはじめとする刑事事件少年事件を専門とする法律事務所です。刑事事件少年事件でお困りの方は、まずは、お気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間受け付けております。