【報道解説】AV新法で全国初摘発

2023-01-24

【報道解説】AV新法で全国初摘発

令和4年6月に施行されたAV新法違反で日本で初めて摘発された刑事事件例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

【報道紹介】

「令和4年6月に施行されたアダルトビデオAV出演被害防止・救済法に違反したとする事例が、全国で初めて摘発された。
法律が義務づけた出演者への契約書の交付をしなかったとして、警視庁が映像制作会社経営の男(50)を同法違反容疑で逮捕し、6日発表した。
保安課によると、A容疑者は8~10月、自身が制作するAV7作品に出演した20~50代の女性3人に対し、撮影する性行為の内容などを明記した契約書を作品ごとに渡す義務があるのに渡さなかった疑いがある。
調べに、容疑を認めているという。」

(令和4年12月6日に朝日新聞DEGITALで配信された報道より匿名にして一部抜粋して引用)

【AV新法とは】

今回取り上げた報道は、「AV新法」違反で日本で初めて摘発されたケースです。
AV新法」はアダルトビデオAV)に出演したことによって生じた被害の防止などに対応するための法律で、正式には「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」と言います。
非常に長い法律名ですので、以下、「AV新法」という略称を用います。

【AV新法の処罰対象】

AV新法では「制作公表者」や「制作公表従事者」に様々な義務を課していますので、違反すると刑事罰の対象になっている義務を簡単に説明します。

そもそも義務の対象になっている「制作公表者」とは、AVの制作公表を行う者として、出演者との間で出演契約を締結し、又は締結しようとする者のことをいい(AV新法2条7項参照)、「制作公表従事者」とは制作公表者以外の者であって、制作公表者との間の雇用、請負、委任その他の契約に基づきAVの制作公表に従事する者のことをいいます(AV新法2条8項参照)。

そして、AV新法5条1項では、AVの「制作公表者」には、AVの出演者との間でAVの出演契約を締結しようとするときには、AV作品ごとに撮影予定の性行為の内容などの事項を書面を交付して説明する義務があります。
このAV新法5条1項の義務に違反すると6カ月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金が科されるか、この両方が科される可能性があります(AV新法21条1号)。

また、AV新法6条では、AVの「制作公表者」は出演契約事項が記載された出演契約書をAV出演者に対して交付・提供しなければならない義務を負っています。
このAV新法の義務に違反して契約書を交付・提供しなかった場合には、先ほどの場合と同様に6カ月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金が科されるか、この両方が科される可能性があります(AV新法21条2号)。

これらに加えて、AV出演契約の解除に関しても罰則が設けられています。
AV新法13条1項では、AVの出演者はAVが公開されてから1年経過するまで(法律の施行後2年間は経過措置として公開から2年経過するまで)はAVの出演契約の申込みを撤回したり、既にAV出演契約がされている場合はAV出演契約を解除したりできます(以下では、この2つをまとめて「AV出演契約の任意解除等」と表現します)。
そして、AV新法13条5項では、「制作公表者」や「制作公表従事者」が、AV出演契約の任意解除等をAV出演者が行使することを妨げるために、AV出演契約の任意解除等に関する事項や出演契約そのものに関する事項で重要なものについて、真実でないこと(不実のこと)を告げてはならないとしています。
また、AV新法13条6項によって、「制作公表者」や「制作公表従事者」には、AV出演契約の任意解除等を妨げるために、AV出演者を威迫して困惑させてはならないという義務も負っています。
こうした義務に違反して、AV出演契約の任意解除等の行使を妨げるために、AV出演者に不実のことを告げたり、威迫して困惑させたりすると、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金が科されるか、又はこの両方が科される可能性があります。

取り上げた報道では、逮捕された男性は、AVの出演契約書を出演者に渡さなかった疑いがあるとのことですので、AV新法21条2号による刑事罰の対象になる可能性があります。

【AV新法違反でお悩みの方は】

AV新法の適用されるのはAVメーカーが制作しているAVにしか限られないと思われている方がいるかもしれませんが、AV新法上、その適用を法人が業務として制作しているAVに限定しているという訳ではありません。
そのため、例えば副業として、個人で出演者を募集・交渉したうえで自分との性行為を撮影することでAVを制作して、そのAVを動画配信プラットフォームで配信しているといった場合にもAV新法が適用されることになります。
出演者に契約書を交付せずにこうしたAVの製作・配信の副業を行っていた場合、出演者からの相談などをきっかけに警察の捜査の対象になる場合があり得ます。

ある日突然、警察から話をききたいと警察署まで呼び出しの連絡が来たら、まずは、弁護士に相談して、取調べの対応を含めた今後の対応についてご相談されることをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件少年事件を専門に取り扱う法律事務所です。
AV新法違反の疑いで警察の捜査を受けてお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所まで一度ご相談ください。