痴漢(強制わいせつ罪)で現行犯逮捕

2019-05-27

痴漢(強制わいせつ罪)で現行犯逮捕

【事件】
東京都渋谷区で電車に乗ったAさんは,混雑する電車内で隣にいた女性(22歳)を引き寄せて体を密着させました。
その後,女性の下半身に手を回ししばらくスカートの上からお尻をなで回したのち、スカート及びパンティーの中に右手を差し入れて陰部をもてあそぶ痴漢をしました。
Aさんは不審な様子に気付いた近くの乗客に右手を掴まれた後に3名がかりで取り押さえられ(現行犯逮捕),隣駅で通報を受けた警視庁渋谷警察署の警察官に引き渡されました。
(フィクションです)

【現行犯逮捕】

通常,被疑者を逮捕するためには裁判所が発行する令状が必要(憲法第33条,刑事訴訟法第199条第1項)で,また逮捕できるのも警察官や検察官など一部の人に限られています。
しかし,現行犯人に対しては,令状なく,さらに私人(警察官や検察官など逮捕権を有する者以外の人)でも逮捕することができます。
現行犯人とは,現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者(刑事訴訟法第212条第1項)をいいます。
私人が現行犯逮捕した場合は,直ちに被逮捕者を地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法第214条)。

今回,Aさんは女性の陰部をもてあそんでいるところを掴まれており,Aさんが現行犯であったと認められる可能性は非常に高いでしょう。

【Aさんの痴漢行為に考えられる罪】

では,今回Aさんはどのような罪の容疑で取調べ等の捜査を受けることになるのでしょうか。

Aさんは女性の体を引き寄せ服の上からお尻をなで,さらに直接陰部をもてあそんでいます。
ここで考えられるのは迷惑防止条例違反強制わいせつ罪です。

【迷惑防止条例違反】

痴漢行為など公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止することによって住民生活の平穏を保持することを目的に各都道府県毎に定められているのが迷惑防止条例です。

東京都の場合,痴漢行為は迷惑防止条例第5条第1項第1号によって処罰対象になっています。
法定刑は6月以下の懲役または50万円以下の罰金です。
後に触れますが,強制わいせつ罪の法定刑(6月以上10年以下の懲役)に比べて軽くなっています。

一般には衣服の上から体を触れば迷惑防止条例違反,直接触れば強制わいせつ罪と考えられている方も多いのではないでしょうか。

東京都の迷惑防止条例の条文には「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって」「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」が処罰対象と書かれています。
つまり,直接触ろうとも迷惑防止条例が適用される可能性があるのです。

【強制わいせつ罪】

次に,強制わいせつ罪について見てみましょう。

強制わいせつ罪(刑法176条)は13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立します。
13歳以下の者に対しては,暴行や脅迫がなくともわいせつな行為をした場合に強制わいせつ罪が成立します。
法定刑は6月以上10年以下の懲役です。

この条文を見ていただくとお気づきになるかと思いますが,「直接触る」であるとか「服の上から」といった文言はありません。
以上から,直接触った場合でも迷惑防止条例違反に問われることがありますし,また服の上から触っても強制わいせつ罪に問われる可能性があるということが分かります。

では,この2つの罪を分ける違いとは何でしょうか。

【痴漢に成立する罪】

痴漢行為は,人の性的自由を侵害する行為です。
性的自由とは,誰といつどこで性的関係を持つのかといった自由を意味します。
この性的自由の侵害の程度が大きければ強制わいせつ罪になりやすく,比較的軽ければ迷惑防止条例違反となりやすい傾向にあります。

というのも,強制わいせつ罪の成立に際しては,暴行又は脅迫があることが要件となっています。
強制わいせつ罪にいう暴行とは,人の身体に対する有形力(物理的な力)の行使であり,かつ相手方の反抗を抑圧するに足る程度の強さのものを意味します。
また,脅迫の場合とは,暴行と同様に相手方の反抗を抑圧するに足る程度の畏怖心を惹き起こすものでなければなりません。
つまり,強制わいせつ罪の場合,暴行や脅迫によって相手方の反抗を押さえつけた上での犯行となるため,性的自由の侵害の程度が大きくなりがちなのです。

男性から女性に対する有形力の行使は,多くの場合女性が肉体的にも精神的にも反抗できないものが多く,同意のない有形力の行使であれば強制わいせつ罪にいう暴行にあたると判断される場合が多いです。
強制わいせつ罪の場合,「暴行」と「わいせつな行為」が同じである場合もあります(例えば抱き着く行為等)。

今回のAさんは,電車内という密室で女性の体を引き寄せており,これは強制わいせつ罪にいう暴行に当たりそうです。
さらにスカートの上からお尻を触り,また直接陰部をもてあそんでいますので,強制わいせつ罪の容疑で捜査される可能性が高そうです。

【弁護活動の方針】

痴漢による強制わいせつ事件等,性犯罪の場合は,被害者と示談することによって起訴を回避できる場合も多いです。
捜査機関に発覚する前であれば,被害届の提出や告訴を回避することも期待できます。

Aさんのように逮捕されてしまった場合でも,早めに弁護士に依頼することによって被害者感情を逆なですることなく適正な価格で円滑に示談を進められれば,不起訴処分を得られる可能性を高めることが出来ます。

ご家族やご友人が痴漢行為で逮捕されてしまった方,警視庁渋谷警察署取調べを受けることになり困っている方は,性犯罪に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にお早めにご相談ください。
初回法律相談:無料
警視庁渋谷警察署までの初回接見費用:34,900円