強制性交等罪で逮捕・暴行脅迫要件とは何か

2020-01-21

強制性交等罪(旧強姦罪)で逮捕されてしまった事案について,本罪における暴行脅迫要件とは何か,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~事例~

大学の部活のコーチであったAは,合宿先で学生Vの部屋を訪ね,「俺の言うとおりにすれば良いことがある」などと話し,Aが巨体であり指導者ということもあり,Vは抵抗できずにAにされるがまま性交されてしまった。
Vは被害届を提出し,大阪府大淀警察署の警察官は,Aを強制性交等罪(旧強姦罪) の疑いで逮捕した。
Aの家族は,性犯罪事件に強いと評判の弁護士に相談することにした。
(フィクションです。)

~強制性交等罪(旧強姦罪)における暴行・脅迫~

刑法177条前段は「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪」とする旨を定めています。
やや分かりにくい規定ですが,これは旧強姦罪に当たる規定であり,女性による男性への強姦や,肛門性交又は口腔性交といったこれまで処罰されていなかった態様の行為をも処罰するために,平成29年(2017年)に改正・施行されたものです。
そして,旧強姦罪でも同様の問題があったように,強制性交等罪の成否に当たっても最も問題となるのが,性交行為に「暴行又は脅迫」を用いられたか否かという点です。

この点,刑法には「暴行・脅迫」を手段とした犯罪は多数規定されていますが,強制性交等罪(旧強姦罪)とならびその典型の一つといえるのが強盗罪です。
刑法236条は,「暴行又は脅迫を用いて」,「他人の財物を強取した者」又は「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者」を強盗罪として処罰する旨を定めています。
もっとも,強盗罪(刑法236条)の「暴行又は脅迫」と,強制性交等罪(旧強姦罪)(177条前段)の「暴行又は脅迫」が条文上同じ文言が使われているのにも関わらず,その解釈は全く異なるということに注意が必要となります。

まずは,強盗罪(刑法236条)の方から見てみましょう。
強盗罪における「暴行・脅迫」は,講学上も最狭義の暴行・脅迫と位置付けられており,その程度として,相手方(被害者)の反抗を抑圧する程度のものが必要であるとされています。
なお,この程度に至らない「暴行・脅迫」しか行われなかった場合には,暴行罪や脅迫罪と窃盗罪が成立するにすぎないことになります。

これに対し,強制性交等罪(旧強姦罪)(177条前段)における「暴行・脅迫」はどのようなものなのでしょうか。
一般的には,本罪における暴行・脅迫は,相手方(被害者)の抗拒を著しく困難ならしめる程度である必要があると解されています。
しかし,近年の実務や裁判例などをみると,必ずしもこの定義を単純にあてはめるものにはなっていないとの指摘があります。
近年では,暴行・脅迫それ自体の程度が問われているというよりも,加害者と被害者との関係や被害者に逃げ場がなかったかなど外部的事情も広く考慮した上で,暴行・脅迫要件を満たすものか否かが判断されているとも分析されているのです。
したがって現在では,弁護士としては,この暴行・脅迫要件を裁判所がどのように解釈し適用するのかについて十分な知識と,それに基づいた弁護活動を行うことが必須になりつつあるといえます。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,強制性交等罪(旧強姦罪)をはじめとした性犯罪事件を含む刑事事件専門の法律事務所です。
冒頭に記した平成29年改正法は,性犯罪の親告罪規定を削除し,これらの罪を非親告罪としたことも重要な改正点として注意する必要があります。
強制性交等罪(旧強姦罪)事件で逮捕された方のご家族は,24時間通話可能のフリーダイヤル(0120-631-881)までまずはお問い合わせください。