準強制性交等罪で無罪の控訴審
準強制性交等罪で無罪の控訴審
準強制性交等罪の無罪判決と控訴について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~ ケース ~
東京都大島町に住むA(48歳)は、妻(46歳)と長女Vさん(19歳)との3人暮らしです。Aは、Vが小学校2年生の頃から性交等の性的虐待行為を継続的に繰り返していました。Vは、当初抵抗していたものの、次第にその程度が弱まっていました。そんな中、Aは今年に入ってから2回、ホテルでVの抗拒不能に乗じて性行を行ったとして、警視庁大島警察署に準強制性交罪で逮捕、その後検察により起訴されました。
(事実を基に作成したフィクションです。)
~ はじめに ~
事例は、平成31年3月28日、準強制性交等罪で起訴され裁判にかけられた男性に対し「無罪」判決を言い渡した
名古屋地方裁判所岡崎支部
での裁判の実例を基に作成しています。すでにマスコミ等で大きく報道されご存知の方も多いのではないでしょうか?
検察側は判決を不服として控訴し、先日、10月28日、名古屋高等裁判所で第一回の控訴審が開かれました。
~ 準強制性交等罪とは ~
準強制性交等罪刑法178条2項に規定されています。
刑法178条2項
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心身を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例(刑法177条)による。
準強制性交等罪は、物理的あるいは心理的な方法で被害者の抵抗を封じるか、あるいは少なくとも抵抗が困難な状態にして、性交等を行ったり、そのような状態にある被害者に対して性交等を行ったりすることを処罰する規定です。上記の規定では、そのような状態を「抗拒不能」という言葉で表現しています。
~ なぜ無罪? ~
では、なぜ、名古屋地裁岡崎支部は無罪判決を下したのでしょうか?
裁判所は、心理的な「抗拒不能」の程度に関し、
性交に応じなければ生命・身体等に重大な危険を加えられるおそれがあるという恐怖心から抵抗できなかった場合や、相手方の言葉を全面的に信じこれに盲従する状況にあったことから性交に応じるほかには選択肢がないと思い込まされていたような場合
と判示しています。そして、
以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく、抵抗を続けて拒んだり、弟らの協力で回避したりした経験もあり、抗拒不能な状態だったとは認められない
と、つまり、
被害者が抗拒不能状態だったとするには合理的な疑いが残る
として「無罪」としたのです。
~ 控訴審の今後 ~
控訴審の審理では、原則として新たな裁判資料の提出が認められず、第一審で取調べられた証拠に基づいて、第一審判決の当否が事後的に審査されます。
このことから、日本の刑事控訴審は「事後審」制であるといえます。
したがって、基本的には第一審のように証人や証拠の取調べは行われません。
控訴審の判決には次の3種類があります。
一つは、「破棄自判」です。控訴審が一審の判決を取り消して、自ら判決を言い渡します。
次に、「破棄差戻し」です。控訴審が一審の判決を取り消し、事件を一審に送り返してもう一度審理させます。一審の裁判所は、差し戻した控訴審の判断に制約されますので、当初と同じ内容の判決を下すことはできません。
最後に「控訴棄却」です。控訴審が控訴申立てに理由がない等として一審の判決を維持する裁判です。これによって一審の判決が維持されます。
今回、名古屋高裁がいかなる判断をするのか注目です。
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