強制性交等罪と被害者供述の信用性

2019-07-21

強制性交等罪と被害者供述の信用性

東京都中央区に住む会社員のAさん(27歳)は、知人女性Vさん方で、Vさん(23歳)に対し、殴る、蹴るの暴行を加えた上、Vさんに性交をした強制性交等罪の疑いで、警視庁中央警察署逮捕されてしまいました。Aさんは、Vさんに対して暴行を加えたことは認めるものの、Vさんに性交したことは否認しています。Aさんは、警察官の取調で、その旨を訴えたのですが、全く聞く耳をもってもらえませんでした。そこで、Aさんは、Aさんの父親から依頼を受けて接見に来た弁護士に自分の主張を伝えました。接見の後、弁護士は、被害者であるVさんの供述に疑問を抱くようになり、強制性交等未遂罪暴行罪の成立を主張していくことに決めました。
(フィクションです。)

~ 性犯罪の特殊性 ~

性犯罪、は犯行場所が密室、あるいは公共の場所であっても目撃者がいない、または少ない場所で行われることが多いと思われます。そうした場合、犯人が罪を犯したことを裏付ける直接的な証拠は「犯人の自白」、あるいは「被害者の供述」しかありません。そして、犯人が自白しない場合、つまり罪を否認している場合は「被害者の供述」のみが、犯人の犯行を裏付ける直接的な証拠となります。性犯罪において、客観的で決定的な証拠がない場合は、「被害者の供述」が唯一の頼れる証拠となってしまうのです。

~ 被害者の供述であっても全面的に信用できない ~

しかし、だからといって、被害者の供述を全面的に信用するわけにもいきません。人はときに先入観、勘違い、思い違い、誘導、時の経過、などによって、誤った供述をしてしまうおそれがあり、それを基に事実認定してしまうと、冤罪を生み出しかねないからです。この点、裁判所は、供述の信用性を判断するため

・客観的な証拠や,その証拠から推認できる事実との整合性しているか
・供述するまでに,記憶が混同・変容しやすい出来事であるか
・供述内容に一貫性があるか
・供述者の利害関係(嘘を述べる動機があるか)
・供述内容に具体性,迫真性があるか
・供述態度が真摯であるか

という要素を考慮して判断しています。

~ 被害者の供述が全面的に認められない場合は? ~

今回、Aさんが疑いをかけられている罪は、強制性交等罪(刑法177条)です。

刑法177条
 13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は,強制性交等の罪とし,5年以上の有期懲役い処する。13歳未満の者に対し,性交等をした者も,同様とする。

今回、Aさんは暴行の事実自体は認めていることから、性交があったか否かを争っていく必要があります。仮に、捜査過程や裁判で、被害者の供述が信用できないと判断され、他にVさんと性交をしたことを裏付ける証拠(膣内の精液に関するDNA型鑑定等)がない場合は、

性交の事実がなかった

ということになり、Aさんには強制性交等未遂罪、あるいは暴行罪が成立するにとどまることになります。

* 強制性交等未遂罪と暴行罪の境界線 *

強制性交等罪の未遂犯といっても、その態様は様々です。強制性交等罪は陰茎を膣、肛門または口腔内に挿入することによって既遂に達するとされています(射精の有無は問わない)から、暴行(実行の着手)後、挿入するまでの行為は未遂犯となります。その行為が挿入行為に近づけば近づくほど(たとえば、相手方の下着を脱がせる行為など)未遂犯とされやすくなると思いますが、遠くなればなるほど暴行罪との区別が付きづらくなることも確かです。
そうした場合は、犯人の内心、つまり、性交する意図があったか否かによって区別されます。ただし、内心は外からでは分かりにくいものですから、そのような意図があったか否かは,犯行時のAさんの言動や行為態様,犯行動機,犯行に至るまでの経緯,犯行後の状況などから判断されるものと思います。

~ おわりに ~

性犯罪事件では、被害者の供述の信用性を十分吟味する必要があります。性犯罪に慣れた弁護士であれば、被害者供述の信用性を的確に判断できますから、有りもしないことで訴えられた、疑いがかけられている罪に納得がいかない、などという方は弊所の弁護士までご相談ください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,刑事事件少年事件専門の法律事務所です。お困りの方は,まずはお気軽に0120-631-881までお電話ください。無料法律相談初回接見サービスを24時間体制で受け付けております。