【事例解説】遊園地にいた小学生をトイレに連れ込んだ男を逮捕(中編)
遊園地で家族と一緒に遊びにきていた小学生を、わいせつ目的でトイレに連れ込んだとして、わいせつ誘拐罪等で男が逮捕された事件(事件)について、前編・中編・後編に分けて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
・事例
東京都中央警察署は、家族と一緒に遊園地で遊んでいた小学生V(11)の女の子に対して、わいせつな行為をしようとしたとして、都内で自営業を営む男性A(35)を不同意わいせつ罪(未遂)の容疑で逮捕した。
Aは、遊園地で家族とはぐれ一人で歩いていたVに声をかけ、お母さんが待っている場所に連れて行ってあげると嘘をついてVを人気のないトイレに連れ込んだとされている。
トイレの中に入ってAが鍵をかけたところ、Vが「ここにもお母さんいないよ」と泣き始めたのをみて、Aはかわいそうに思いVをトイレから出してあげることにした。
歩き回って両親のもとに戻ったVが、知らない人(A)にトイレに連れ込まれたことを告げたところ、両親が被害届を出したため、防犯カメラからAが特定され逮捕されるに至った。
(フィクションです)
・不同意わいせつ罪
刑法176条第3項(出典/e-GOV法令検索)は、16歳未満の者に対してわいせつな行為をした者については同意の有無を問わず、6ヶ月以上10年以下の拘禁刑に処すると規定しています。
本件Vは11歳ですから、Aは(仮に同意があったとしても)わいせつな行為をした場合には不同意わいせつの罪に問われることになります。
もっとも、本件では、Aは、トイレにお母さんがいないことに気づいたVが泣き始めたのをみて、かわいそうに思い、トイレからVを解放しています。
このことは、刑法上何か意味を持つのでしょうか?
・中止未遂
刑法43条前段は、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる」としています。
仮にAが、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者」に当たるとすれば、Aは減軽される可能性があります。
では、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」とはどのような場合を指すのでしょうか?
まず、犯罪の実行に着手した時点とは、犯罪の結果発生の現実的危険性のある行為が開始された時点であるという考え方が有力です。
不同意性交等罪の前身である旧強姦罪事件について、被害者を性交に及ぶ目的でダンプカーに引きずり込もうとした段階をもって、犯罪の実行に着手したと認定して未遂犯を成立させた判例があります。
本件の場合、AがVを連れ込んだトイレの中で、Vにわいせつ行為をしようとして近づこうとしていた場合、不同意わいせつ罪の「現実的危険性のある行為が開始された」として、不同意わいせつ罪の実行に着手したと判断される可能性があります。
そして、Aはトイレに母親がいないと気づいたVが泣き始めたのをみて、かわいそうに思いわいせつな行為をすることをやめて、Vを解放したようです。
上記の刑法43条は、前段に引き続き「ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。」と規定しています。
こちらに該当する場合を中止未遂と言い、必ず刑が減免されることになります。
仮に、被害者が大声で泣き始めたため周囲の人に見つかるのは時間の問題であったためわいせつ行為をすることを諦めざるを得ない状況であったなど、犯行の継続を思いとどまらせるような外部的事情により犯行を中止したような場合には、「自己の意思により犯罪を中止した」には該当しないと考えられます。
本件においても、仮にAがVに対して犯行をやめたのが、Vの泣き声などの外部的事情によるものだとすれば、自己の意思により犯罪を中止したとは言えず、通常の未遂として刑が任意的に減軽されるにとどまります。