東京都墨田区のわいせつ物頒布事件

2019-02-06

東京都墨田区のわいせつ物頒布事件

~事例~

東京都墨田区在住のAは、インターネットで自作の小説を販売していた。
Aの販売していた小説は、所々に性的描写をした記述があり、Aはそのような性的描写を売りにして小説を販売してきた。
もっとも、Aは自らの小説はあくまで芸術作品であり、小説内の性描写は叙述表現の一種と考えていた。
(この事例はフィクションです)

上記の事例においては、Aにわいせつ物頒布罪が成立する可能性があり、Aには2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処せられるおそれがあります。
わいせつ物頒布罪(刑法175条1項)における「わいせつな文書」といえるかどうかについては、文書を全体として判断して、いたずらに性欲を興奮させ、一般人の性的羞恥心を害し性道徳に反するものかどうかによって判断されます。
上記事例では、Aの小説に占める性描写の比重やその程度、Aの主張する小説そのものの芸術性による性的刺激の緩和の程度などを総合的に考慮して、Aの小説が「わいせつ文書」にあたるかどうかが判断されます。

また、Aは自らの小説をインターネットで販売していますが、「頒布(はんぷ)」とは不特定多数の人に対し配布することを意味することから、Aさんの行為は不特定多数の人に「わいせつな文書」を配布する行為といえるため、「頒布」にあたりえます。

もっとも、上記事例ではAは自らの小説を「わいせつな文書」に当たらないと判断してインターネットでの販売を行っています。
そのため、Aさんは「わいせつな文書」という認識を欠き、わいせつ物頒布罪の成立要件である故意が認められないとも思えます。
行為者の認識と客観的事実にくい違いがあることを法律上、「錯誤(さくご)」といいます。
刑法上、錯誤には、事実の錯誤と法律(または違法性)の錯誤が存在し、事実の錯誤にあたるといえる場合には故意が否定されると考えられています。
Aさんの小説は客観的には「わいせつな文書」にあたるにもかかわらず、Aさん自身は「わいせつな文書」にあたらないと考えていることから、Aさんの認識と客観的事実にくい違いがあるといえ、Aさんには錯誤が認められます。
したがって、Aさんの錯誤が事実の錯誤に当たる場合には、故意が否定され、Aさんにはわいせつ物頒布罪は成立せず、法律の錯誤にすぎない場合には、故意は否定されないといえます。

上記の事例と同様の判例において、「わいせつ性」の認識が認められるためには、当該文書が刑法上の「わいせつ文書」にあたるという認識まで必要となる訳ではなく、一般人がその記載から読み取れる程度の認識があれば足りると判断されています。
つまり、当該文書が「わいせつ性」を有するという素人的意味の認識があれば、この程度であればわいせつ性を有しないという判断は法律の錯誤にすぎず、故意は認められると考えられています。
上記の素人的意味の認識とは、具体的には、みだらな性描写があるという認識やこの本はいわゆるエロ本にあたるという程度の認識をいいます。

上記事例においては、Aは自らの小説に所々性的描写があることを認識しており、そのような性的描写を売りにして小説を販売しています。
そのため、Aは自分の小説がわいせつ性を一定程度有していることは認識しているといえ、素人的意味の認識はあるといえます。
したがって、Aにはわいせつ物頒布罪の故意があるといえ、Aの行為には同罪が成立する可能性は高いと思われます。

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