不同意わいせつ罪(旧 強制わいせつ罪)
不同意わいせつ
刑法第176条
1項 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
1号 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
2号 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
3号 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
4号 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
5号 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
6号 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
7号 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
8号 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2項 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3項 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。
不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑です(刑法第176条)。
なお、「拘禁刑」はまだ施行されていないので、それまでは「懲役」になります。
【不同意わいせつ事件の解説】
1 不同意わいせつ罪について
不同意わいせつ罪は、令和5年の性犯罪規定に関する刑法改正によって、今までの「強制わいせつ罪」に代わって、新たに創設された犯罪です。
今までの「強制わいせつ罪」では、性犯罪の被害者を救済できない場合も散見されました。
そこで、「強制的にわいせつ行為をした場合」だけではなく、「同意なくわいせつ行為をした場合」を広く犯罪とするように、刑法が改正されました。
令和5年7月13日より、改正法が施行されます。したがって、同日以降に発生した事件は、「強制わいせつ」ではなく、「不同意わいせつ」となります。
2 旧強制わいせつ罪との違い
①「婚姻の有無」と「誤信」の明文化
不同意わいせつ罪においては、「婚姻の有無にかかわらず」(1項柱書)や「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ」た場合(2項)にも不同意わいせつ罪が成立することが明文化されました。
強制わいせつ罪の時代から判例としては確立していたのですが、今回の改正で明文になりました。
②性交同意年齢
強制わいせつ罪での性交同意年齢は13歳でしたが、不同意わいせつ罪では16歳に引き上げられました(3項)。
ですので、相手方が16歳未満であれば、原則として、不同意であろうとなかろうと、不同意わいせつ罪が成立します。
ただし、相手方が13歳・14歳・15歳の場合には、「その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」である場合にのみ、不同意か否かが要件となります。
要は
・相手方が16歳未満であれば、原則として、不同意であろうとなかろうと、不同意わいせつ罪が成立する
・相手方が13歳・14歳・15歳の場合で、自分との年齢差が5歳以上の場合には、不同意であろうとなかろうと、不同意わいせつ罪が成立する
・相手方が13歳・14歳・15歳の場合で、自分との年齢差が5歳未満の場合には、不同意であれば、不同意わいせつ罪が成立する
・相手方が13歳未満であれば、不同意であろうとなかろうと、不同意わいせつ罪が成立する
ということになります。
③準強制わいせつ罪の統合
改正前刑法では、強制わいせつ罪とは別に、「準強制わいせつ罪」というものも規定されていました。
「準強制わいせつ罪」とは、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為」をした場合に成立するものです。
しかし、刑法改正により、2号・3号・4号などに列挙されました。
準強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に吸収される形で消滅しました。
3 成立要件
不同意わいせつ罪が成立するためには
①1号から8号に該当する行為又はこれらに類する行為があり
②それらの行為により同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて
③わいせつな行為をしたこと
が必要となります。
では、簡単に各要件を確認しておきましょう。
①1号から8号
1号:旧強制わいせつ罪でも規定されていた「暴行若しくは脅迫」によるものです。
「暴行」とは、人の身体に対する有形力の行使、「脅迫」とは、人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知です。
不同意わいせつ罪においては、暴行・脅迫の程度は問われなくなりました。
暴行や脅迫の程度は、②で考慮されることになります。
2号:「心身の障害」によるものです。
「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害を意味するとされています。
1号と同様、その程度は問われません。
従前の準強制わいせつ罪に近いものになります。
3号:「アルコール若しくは薬物」によるものです。
1号と同様、その程度は問われず、②で程度を考慮することになります。
こちらも、従前の準強制わいせつ罪に近いものになります。
4号:「睡眠その他の意識が明瞭でない状態」によるものです。
こちらも、従前の準強制わいせつ罪に近いものになります。
5号:不同意の意思形成や表明をする「いとまがない」場合によるものです。
拒絶するいとまを与えないような場合、例えば、被害者の気をそらすような発言をし、その隙に胸を触るような場合が想定されます。
6号:予想外の事態により恐怖・驚愕させる場合です。
「予想と異なる事態」には、性的行為が行われるかどうかに関する予想が実際と異なった場合のほか、行為者の態度や言動、周囲の状況、性的行為が持ち掛けられたタイミングなどについて予想と異なる点がある場合なども含むと考えられます。
例えば、電車内での痴漢行為などがこれに該当する可能性もあります。
7号:「虐待に起因する心理的反応を生じさせること」によるものです。
虐待の典型例は殴る・蹴るなどの暴行ですが、それに限らず、ネグレクトや心理的虐待、性的虐待も含まれます。
家庭内(親子間)の虐待だけに限られません。
8号:経済的又は社会的地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる場合によるものです。
例えば、家族関係(わいせつ行為に応じないとお小遣いをあげない等)や上司と部下(昇進や解雇をちらつかせる等)、教師と学生、介護施設職員と入所者などが考えられます。
②同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて
1号から8号に該当する行為又はそれに類する行為により、不同意の意思形成や表明をしたり、不同意の意思を全うすることが困難な状態になっていることです。
「全うする」とは「完全に果たす、なしとげる、完全に保つ」という意味であるところ、たとえば性的行為をしないという意思を一旦表明したものの、恐怖心などからそれ以上のことができない状態あるいは押さえつけられて身動きが取れない状態など、性的行為をしない、したくないという意思があるのにその通りにならない状態を表すとされています。
また、暴行や脅迫の程度や飲酒酩酊の程度などは、ここで考慮されることになります。
③わいせつな行為をした
「わいせつな行為」については、不同意わいせつ罪でも強制わいせつ罪でも変わらないと考えられます。
「わいせつな行為」とは、被害者の意思に反して、身体を侵害し、そのことによって被害者の性的羞恥心を害し、かつ一般通常人でも性的羞恥心を害されるであろう行為をいうとされています。
また、性的意図の有無は一律には必要とされておらず、例えば嫌がらせ目的で被害者の胸を触ったとしても、わいせつ性が否定されるわけではありません。
ただし、行為の外形からは「わいせつな行為」といえるかどうか微妙な場合には、行為者の意図も一事情として考慮されます。
【不同意わいせつ事件の対応】
1 無罪を主張する場合
身に覚えがないにも関わらず、不同意わいせつの容疑を掛けられてしまった場合や相手方の同意があった場合には、弁護士を通じて、警察や検察などの捜査機関及び裁判所に対してその旨主張することで、不起訴又は無罪を獲得する余地があります。
身に覚えのない不同意わいせつの容疑をかけられた場合には、アリバイや真犯人の存在を示す証拠を提出することで、不同意わいせつ罪を立証する十分な証拠がないことなどを主張していきます。
また、相手方の同意があったことを主張する場合には、相手方の同意を推認することができる客観的な証拠、事情を捜査機関に主張していくこととなります。
もっとも、アリバイの主張や同意があったことの主張・証明にはポイントがあるところ、効果的な主張・証明を行っていくことは、一般の方には困難と思われます。
この点、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、不同意わいせつ事件など刑罰(刑事責任)が問題になる刑事事件・少年事件を取り扱っており、強制わいせつ事件の刑事弁護実績が豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、適切なアドバイスをすることにより、不起訴・無罪を獲得するためのサポートをさせていただきます。
2 罪を認める場合
⑴ 謝罪、示談
被害者感情が重要視される昨今、不同意わいせつ事件においても、被害者の方と示談することは、重要な弁護活動です。
警察に被害届が提出される前であれば、被害届の提出を阻止し、警察の介入を阻止して事件化を防ぐことができます。警察に被害届が提出されてしまった後であっても、不同意わいせつ事件においては、示談をすることによって、不起訴を獲得する可能性を高めることができます。
また、不同意わいせつ罪は、非親告罪です。非親告罪とは、検察官が起訴をする要件として、被害者等からの告訴が必要とされる罪を言います。よって現在は、示談により告訴取消しを獲得しても、確実に不起訴を獲得できるという法律にはなっていません。
ただし、実務上の運用においては、被害者の意思を尊重し、プライバシー侵害が生じないように配慮することとされており、示談によって告訴の取消しに結びつけることができれば、不起訴獲得に向け大きく前進することができるでしょう。
不同意わいせつ事件では、被害弁償や示談の有無及び被害者の処罰感情が行為者の処分に大きく影響することになるので、弁護士を介して迅速で納得のいく示談をすることが重要です。
また、示談をすることで行為者が釈放される可能性もありますので、示談によって行為者の早期の学校復帰・社会復帰を目指すことができます。
⑵ カウンセリング等を受ける
不同意わいせつ事件の加害者のなかには、その背景に自己の性的衝動に対するコントロールに関し、何らかの問題を抱えている場合が多く、そのような場合には、専門家による治療が必要となります。
カウンセリングを受けたり、クリニックに通うことによって、問題を根本から改善する必要があります。