【条文解説】不同意性交等罪の改正について(前編)
不同意性交等罪の改正点について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
不同意性交等について
ここ最近、不同意性交罪で逮捕される人のニュースが相次いでいます。有名人が逮捕されたようなケースに限らず、一般人の男性が、マッチングアプリで出会った相手と一緒にホテルに行き、後日、不同意性交の容疑で逮捕されたというニュースなどもあります。
この「不同意性交(等)罪」というのは、2023年に、元々の「強制性交等罪」を改正する形で成立しました(施行日は2023年7月13日)。この強制性交等罪も、以前は「強姦罪」として規定されていたものが2017年に改正されたものです。この相次ぐ改正で、かつての強姦罪よりも、処罰の対象となる行為の範囲が大きく広がっているのです。
以下では、刑法177条に定められている不同意性交罪の改正のポイントについて解説します。
不同意性交等の改正のポイント
2023年の改正によって、まずは、①同意年齢についての制限が引き上げられました。
以前は、自由な意思決定による同意が期待できないとされていた13歳未満の者との性交等を処罰対象としていましたが、改正により、13歳以上16歳未満の者との性交等について、互いの年齢が5つ以上離れている場合も処罰対象に含まれました。
つまり、一方が5歳以上の年長である場合には、同意年齢が16歳未満にまで引き上げられたということです。
たとえば、14歳の子供に対して、19歳以上の者が性的行為を行った場合は、同意があったとしても処罰の対象となります。
そして、②これまで必要とされていた、「暴行又は脅迫」、あるいは、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件が変更され、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」と広く規定されることになりました。
そのような「困難な状態」を作り出す原因となる行為や状況が、刑法176条1項各号に例示されています。
1 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
2 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
3 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
4 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
5 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
6 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
7 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
8 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
特に、5、6、7、8のような場合、かつての「強姦」のような強引で暴力的なイメージのものではなくとも、犯罪が十分成立し得ることになることに留意が必要です。
相手が性交について同意してくれていると自分が思い込んでいたとしても、実際は、相手が予想外の恐怖などでフリーズしていて嫌がるそぶりをみせることができなかっただけであったり、過去の虐待のトラウマなどで拒否できなかっただけであったり、といった理由で、相手の同意がはじめからなかったとされることがあります。
性交をする前に逐一同意書を作成しないといけなくなるのか、などとインターネット上で半ば本気でささやかれたりする原因にもなっています。
さらに、③陰茎以外の身体の一部又は物を膣又は肛門へ挿入する行為も、新たに対象に含まれることになりました。
改正以前は、「陰茎」を膣へ挿入すること(性交)、及び肛門(肛門性交)、口(口腔性交)へ挿入することのみが「性交等」とされていました。
上記の通り、改正後は、陰茎以外の指やなんらかの物を、膣又は肛門に挿入することも「性交等」とされます(口に挿入した場合は除く)。
相手の同意なしに指を膣に挿入するような行為は、以前までは強制わいせつ(不同意わいせつ)として事件処理されるにとどまっていました。しかし、今回の改正により、そのような行為でも不同意性交等になり得ることになります。犯罪が成立した場合の刑罰は5年以上の有期拘禁刑であり(177条1項)、実刑(=執行猶予が付かないこと)になる可能性が高くなりました。
最後に、④条文に、「婚姻関係の有無にかかわらず」と明記されることになりました。
以前も、配偶者との間でも犯罪は成立し得ましたが、改めてそれを明記した形です。夫婦だからと言って、不同意性交が全く成立し得ないと考えるのは誤りだということです。