【事例解説】バレー大会で女子選手の下半身を盗撮した疑いで逮捕(前編)
北海道のバレーボール大会で女子選手の下半身を撮影したとして、北海道迷惑行為防止条例違反で逮捕された事例を参考に、性的姿態等撮影罪と迷惑行為防止条例違反が成立するか否かについて弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
・事件概要
北海道札幌市内で開催された高校バレーボール大会で、試合中の女子選手の下半身を盗撮したとして、札幌市内に住む自称カメラマンの男性が北海道迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕されました。
札幌中央警察署によると、男は、札幌市内であった高校バレーボール大会で、競技中の女子選手の下半身をビデオカメラで撮影していたところ、それに気づいた大会運営スタッフが警察に通報しました。
警察の取調に対し、男は「モデル撮影の練習で撮影していた。服の上から撮影するのであればどこを撮っても問題ないと思っていた。」と供述しているとのことです
(フィクションです)
・性的姿態等撮影罪とは
性的姿態等撮影罪は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(出典/e-GOV法令検索)が規定する犯罪です。
令和5年に施行された本法律により、従来、各都道府県の迷惑行為防止条例違反として処罰されていた盗撮行為は基本的に、「性的姿態等撮影罪」(同法2条1項)として、全国で統一的に処罰されることになりました。
本件で男がした盗撮行為は、性的姿態等撮影罪が成立するでしょうか。
性的姿態等撮影罪は、正当な理由なく「性的姿態等」をひそかに撮影する行為を、一定の例外を除き処罰すると定めています。
この「性的姿態等」の対象として、(1)人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部)、又は(2)人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を覆っている部分、と規定されています(同法2条1項1号イ参照)。
具体的には、入浴中の裸の人や、下着姿の人を盗撮するような行為が、性的姿態等撮影罪が成立し得る典型例となります。
本件の男は、バレーボール大会で競技中の女子選手の下半身を撮影したとされています。
このように衣服の上から下半身を撮影したにとどまる場合は、通常、「性的姿態等」の撮影に該当せず、性的姿態等撮影罪は成立しない可能性があります。
もっとも、性的姿態等撮影罪は未遂犯も処罰されますから、本件の男が「性的姿態等」を撮影しようとしていた場合は、未遂犯として処罰される可能性があります(同法2条2項)。
今回は、バレーボール大会で競技中の女子選手の下半身を撮影した行為について、性的姿態等撮影罪が成立するかについて解説しました。
次回は、この行為が北海道迷惑行為防止条例違反に該当するかどうかについて解説します。
・盗撮行為をした場合の刑の重さ
盗撮行為により性的姿態等撮影罪が成立した場合の法定刑は、3年以下の拘禁刑(施行までは懲役刑)又は300万円以下の罰金となります。
福岡県迷惑行為防止条例の法定刑は、常習ではない場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金ですので、性的姿態等撮影罪の創設により盗撮行為は厳罰化されたと言えます。
・できるだけ早く弁護士に相談を
性的姿態等撮影罪は被害者のいる犯罪です。
したがって、被害者との間で示談を成立させることができるかどうかが重要となります。
仮に、被害者との間で示談を成立させることができれば、不起訴処分を獲得できる可能性があります。
不起訴処分となれば、前科がつくこともありません。
仮に起訴されたとしても、被害者との間で示談が成立していれば、執行猶予がついたり刑が減軽されたりする可能性があります。
もっとも加害者自ら示談交渉を行ってもうまくいかない可能性が高いです。
通常、被害者は加害者に対し強い処罰感情を有しており、加害者と関わりたくないと思っているからです。
そこで、示談交渉は弁護士に一任されることをおすすめします。