性犯罪と裁判員裁判

【性犯罪・わいせつ事件での裁判員裁判】

1 裁判員裁判

平成21年5月から、我が国で「裁判員裁判」がスタートしました。一定の重大犯罪について、プロの裁判官に加え、一般市民の中から選ばれた「裁判員」が裁判を行うという制度です。裁判員に選ばれた方は、プロの裁判官と並んで座り、公判の最初から最後まで審理に携わります。証人や被告人に対しては、裁判員自身も質問を行うことが可能です。そして、「評議」の中で、公判廷に現れた全ての証拠をもとに、プロの裁判官と一緒になって判決の内容を決めていくのです。裁判員は、有罪か無罪かのみならず、有罪の場合には量刑の判断にも携わります。

裁判員裁判は、一般市民に実際に裁判手続きに関与してもらうことで、国民の司法に対する関心を高め、国民の司法への信頼を高めることを目的としています。制度の導入に当たっては、国民に過度な負担を与えるのではないかといった懸念の声も上がり、反対論も少なくありませんでした。しかし、いざ制度がスタートしてみると、実際に裁判員として裁判員裁判に参加した方々からは、「参加して良かった」といった声が多いようです。まだまだ新しい制度です。裁判の進行方法・裁判員の負担軽減・裁判員の精神的サポート等々について、まだまだ検討課題も山積みです。今後、司法に携わるものと一般市民の方々が協働して、この制度をより良いものにしていくことが求められています。

 

2 性犯罪・わいせつ事件と裁判員裁判

性犯罪・わいせつ事件の中で裁判員裁判対象事件となっているのは、主に以下のものです。

 

①不同意わいせつ致死傷罪(旧 強制わいせつ致死傷罪)

第176条  

次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

 

第181条 1項 

第176条若しくは第179条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の拘禁刑に処する。

 

②不同意性交等致死傷罪(旧 強姦致死傷罪・強制性交等致死傷罪)

第177条  

前条(注 176条)第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、こう門性交、口くう性交又はちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。

 

第181条 2項

第177七条若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は6年以上の拘禁刑に処する。

 

【裁判員裁判での弁護士の重要性】

1 充実した公判準備

裁判員裁判は、プロの裁判官だけでなく一般市民の方も参加するため、通常の裁判官だけの裁判の場合よりも、「分かりやすい」公判進行が求められます。裁判官だけの裁判の場合には、多くの手続きが「書面」で行われます。しかし、裁判員裁判においては「口頭主義」が徹底されます。また、公判廷で使用する言葉についても、難解な法律用語を避け、普段法律に触れることのない方にも充分理解できる表現を用いる必要があります。さらに、裁判官だけの裁判においては、大量の記録が整然と整理されることなく提出・取調べが行われることもままあります。しかし、裁判員裁判では、公判廷で取り調べる(裁判員の方に見て検討してもらう)証拠を必要最小限のものに厳選し、その取調べ順序・取調べ方法(パワーポイントを使用したりすることも多いです。)を徹底的に吟味することが求められます。公判全体の進行についても、あらかじめ分単位で計画が立てられます。弁護側としても、通常の裁判官裁判のときよりも、多大な時間と労力をかけ、公判準備を入念に行う必要があるのです。弁護士にとっても、他の事件の“片手間”にできるものではありませんし、何より、刑事事件・裁判員裁判に精通していないと、とても必要十分な対応ができません。裁判員裁判対象事件を起こしてしまった場合、早急に、刑事事件・裁判員裁判に精通した弁護士にご相談することが重要です。

 

2 長期間にわたるサポート

裁判員裁判事件の場合、公判廷における公判自体は短期集中的に実施されます。しかし、それを可能にするために徹底した事前準備が行われ、それにはかなりの時間がかかります。事件の内容や争いの程度にもよりますが、半年から1年はかかると考えておいた方が良いでしょう。この間、不定期で入る種々の手続きへの対応の他、とくに身体拘束を伴う事件の場合には、接見等を通じた被告人の精神的サポートも弁護士の重要な仕事となります。裁判員裁判では、刑事事件への熱い思いをもった弁護士でなければ、到底充実した活動は出来ないでしょう。

 

3 高度の弁護技術

そもそも裁判員裁判対象事件は、重大犯罪に限られています。有罪となった場合には、かなり重い刑が予想されます。一方で、弁護活動が功を奏した場合には、減刑の幅も大きくなり得ます。弁護活動如何で結論が大きく変わる可能性があるのです。膨大な証拠資料を精査し、的確に争点を把握し、ポイントを突いた弁護活動を行うためには、刑事事件を扱った経験の豊富さがまずもってものを言います。またそれと同時に、捜査機関側は「組織」で動きます。通常弁護士は「独り」での活動になりがちですが、こと裁判員裁判においては、こちらもまた「組織」で対応することが求められると考えます。常日頃から組織として数多くの刑事事件に携わっている弁護士に事件を依頼することが重要です。

裁判員裁判対象事件となる(なり得る)性犯罪・わいせつ事件を起こしてしまった場合には、一刻も早く、刑事事件に特化し、組織としての刑事弁護を実践している、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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